9/3まで渋谷のアツコバルーにて開催されていた
『極限芸術〜死刑囚は描く〜』を観てきました。
ポスターの作品に選ばれているのは、死刑囚アーティストの
広告塔でもある林マスミちゃんです。
マスミちゃんの絵は入口付近に大きく飾られていましたが
想像するよりはまあちょっとメンヘラ気味の女子中学生の
落書きに近いような感じでした。
あと自分をイメージしていると思しき女性のイラストが
出てくるのですが、小顔で目がパッチリしたショートカットの
キョンキョンみたいに描いていました。
まっったくすこっっしも本人に通ずる要素がなく、それでも
自分の中ではこんな可愛い子が「自分だ」と認識しているんだなと
思うとゾッとしました。
「すべての犯罪は『自己認識のズレ』から起こる」という
自説を裏付けるものとなりました。
そのほか雑居ビルの中のワンフロアの小さなギャラリーに
十数名の死刑囚によるアート作品がそれぞれ展示されていました。
その人がどんな罪で、死刑囚にまでなっているのか説明はありませんが
あの秋葉原の加藤くんもいましたよ。
キャプションにはどの事件とは書いてありませんでしたので
気になる絵は名前をメモして後からググりました。
私はいわゆるアウトサイダーアートは大好きなのですが、
その無垢な魂の生み出す作品とはまたちがって
死刑囚アートはいろいろな下心、本人の無念さや野心などが
静かに光っていて腹にクるものがあります。
私が特に惹きつけられたのは、80年代のイラストみたいな
素っ頓狂な一コママンガを、びっしりと塗りつぶした
鮮やかな赤と青と黒のみで描いている松本健次さんの作品群。
家族なのか支援者との文通の中で“手紙用の”赤・青・黒
ボールペンのみを使用しているのですが、横尾忠則風の
センスを醸し出しています。
どんな人なのか気になって、あとから松本健次さんの
起こした事件を調べてみると保険金などの計画殺人で
安易に何人も手にかけた凶悪犯罪でした。
ところがこの人は昔から冤罪を疑われていて、軽度の
知的障害があったことから実兄にひどく扱われており
保険金殺人も実行を兄に命令されて罪を着せられたのでは
ないかと言われているようです。
その兄は自殺しているとか。
冤罪だったとしたらとても気の毒です。
もう一人、コイツは冤罪じゃなくて本当にヤってんじゃないかと
思ってしまったのは、正面を向いて同じ表情をした
女性像を何枚も描いている金川一という死刑囚。
70年代に熊本で起きた女性の惨殺事件の犯人だそうです。
その絵の女性たちは髪が長かったり短かったりキレイだったりブスだったり
服を着てたり着てなかったりとバラバラなのですが、
ものすごく口角をあげた独特のスマイルを一様に浮かべているのです。
女性に対する見方がちょっと普通じゃないというか、やばいニオイを
発する絵です。
ただこの人も知的障害があり、冤罪という説もあるのだそうです。
死刑囚の絵の中には上記のようなクセの強いものばかりじゃなく
ただただ緻密な模様みたいのを描く人や、普通の風景や動物とかを
上手に描く人、模写みたいのをひたすらやる人など様々。
ただ、結局全部の作家の罪状をあとで調べたのですが、そのほとんどが
強盗殺人・強姦致死などの短絡的で衝動的な殺人事件の犯人なのです。
怨恨だとか恋愛などのもつれというのもなく、頭や
感情を要するものというよりは「野蛮な」事件が多いのです。
それが何を意味しているかというと、こうした事件を起こして
また疑われて死刑にまでなり、そのうえでアートの才能を発揮する
人というのはやはりどこか知能的に欠陥のある人物だろうということです。
もちろんそういう人だから短絡的な犯罪を起こすファクターがあるというよりは
環境的にそうなりやすい、また疑われても本人が釈明できにくいという
意味でです。
ここでようやくアウトサイダーアートとつながってくるのです。
施設かなにかでアートの才能を存分に発揮させてもらえている人も増えてきて
いますが、その片側にはこういう側面もあるということに気がつくと
非常に胸が切なくなりましたね。
アツコバルーは小さなギャラリーですが以前はラブドールのオリエント工業が
展示をしていたり、10月にはアレハンドロ・ホドロフスキー夫妻のドローイング
展示を予定していたりとなかなかポテンシャルの高いところです。